ボクサーブリーフ

猫と暮らしていると2週間に一度はペットショップへ行く。最寄りのペットのコジマは相模原ニトリモールの中にあり、そこにはニトリは勿論、トイザらス、OKストアもあるので、家族客にとってのエコタウンと言える。言えない。エコタウンはそんな風に何かを例えるのに適さない。そういう、家族連れでごった返す週末のニトリモールは、知り合いが一人もいないクラブイベントのようで、みんな笑顔なのに私だけ真顔で、居心地の悪さを隠すために直角に角を曲がりながらトイレに入り、自分はどこにいても一人なのだなと思いながらXを見るのが大変心地いい。そういうのは20代前半で終わらせておくべきであり、なんだ私はまだ青年の気分なのかトイレの鏡に写る白髪交じりで顔の沁みも濃くなった中年を見てごらんその男が青年と言えるのは地元の青年会の会合にいるときだけで残念ながらここは青年会の会合ではなくニトリモールおやごらん鏡の中の小男が泣き始めたよおもしろいねと思ったという設定で直角に角を曲がりながらペットのコジマに入ります。2週に一度。

ペットのコジマの二つ隣にはアベイルというファッションセンターしまむらの親戚みたいな店舗があり、コジマに寄った際には必ず寄るようにしています。アベイルは「今を着る」というブランドコンセプトの元、マーキークラブパンストドロヘドロなどとコラボしてしまむらの親戚みたいな服を大量に揃えて「今」という概念に喧嘩を吹っ掛ける企業で、毎回ブックオフの250円CDコーナーをチェックする感覚で覗きに行きます。ただ、ブックオフ250円CDコーナーには稀に良いCDがある。アベイルに良い服は無い。一着も無い。心が動いたことが無いとは言わない。でも一度も買った事はない。2週に一度アベイルに行くのに一度も服を買った事が無い事を自慢気に語りながら生きるつもりです(介護付き有料老人ホームなどで)なのに、冒頭のXのポストです。ジャミロクワイは就職氷河期に効く。カチカチに凍った心に攻撃が通ってしまう。アベイルは過去にもジャミロのコラボスウェットを出した事がありますがダサかったので余裕でスルーできました。でも、パンティーは無視できない。もし、私に人生最後の玉幸が訪れ、相模原ニトリモールみたいなクラブイベントで女性と知り合い、その場で意気投合、そのまま、その、もつれ込んでしまう事が起きてしまったとするじゃないですか? え、嘘、そんな事あるの? 頑張って生きよう。で、その時、よもやそんなことが起きるとは思わず私がこのジャミロパンツを履いてしまっていたとしたら。相手、笑いゲロ吐くんじゃ? いや、ムードもある。きっと大変人間が出来てる人なので、ムードを壊さないよう大人の対応をされる。でも、最中ずっと「ジャミロて」と思ってる。もしくは、翌日の別れ際に「ところであのパンツさ(笑い)」って言われる。その方を○○さんとします。その次に○○さんとクラブで会ったとき、凄いニヤニヤされながら「あ、ジャミロ、一緒飲もうよ」と話しかけられ、あだ名が「ジャミロ」になる。周囲の認知も段々変わってきて、知らない人から好意的に「ジャミロさんですか?」と声を掛けられ、フライヤーにも「ジャミロ」と書かれる。皆さんは耐えられますか? 私は耐えられるな! みんなから愛されて「ジャミロさん」って呼ばれるなら、そこはもうニトリモールではないんですよ? もうあんなところ戻りたくない! でも、30代なら無理でした。30代までは、恥をかく事が怖く、飛行機に乗る事が怖く、写真に写る事が嫌で、自分の写る写真が大嫌いで、私はそんな私である事に固着していました。40代になって少し経った頃、機内でいつものようにひじ掛けを全力で握りながらも、ふと思いました。「実はもうあんまり怖くないよね?」瞬間、霧がさっと晴れた気持ちになり、それ以降いつどこでも鼻糞をほじれる様になりました。人差し指第3関節まで突っ込める。自分が写ってる写真を見ても「いい写真だね。ところでこの醜夫誰?」って言えるようになりました。でも、私を「ジャミロさん」と呼ぶ人がいたら全力でその人を憎む。無理よ。そんな屈辱耐えられないし、二度とその場に行かない。ニトリモールに帰る。そう言っているのに、○○さんは私を「ジャミロ」と呼び続けるのです。ちょっと良いレストランに行った時も○○さんの友達と会う時も紅葉を観たいと呼び出され遠出した時も、所かまわず「ジャミロ」と呼ぶので、流石に勘弁してほしいと伝えます。すると○○さんは、はじめて私を「ジャミロ」と呼んだ時のようにニヤニヤして言うんです。

「じゃあ、なんて呼んで欲しいか教えてよ。これから、ずっと一緒なんだからさ」

ジャミロパンツ買わな。ユニクロのエアリズムシームレスボクサーブリーフ履いてる場合じゃねぇ。うち、それしかねぇ。公式で言うように「まるで、はいていないような着心地」なので、ノーパンで外を歩いているような罪悪感があって最高なのに。こんなんじゃ○○さんを笑わせる事が出来ないし、私は○○さんがこの世に存在していない事を受け入れられなくなってきました。噓でしょ、○○さんはどこにもいなくて、後数時間後には労働が始まるとか。いやでも、○○さんなんていなくて良かったのかもしれない。私は120歳まで生きる予定なのですが、女性の平均寿命って80後半でしょう。先死ぬじゃん。耐えられない。私、○○さんにはずっと長生きしていて欲しいんです!(瞳孔ガン開き) でも、人は摂理に逆らう事はできないので、数十年後、○○さんは夏のある日倒れて入院してしまうのです。私は毎日、病院に通います。免許は返納したので、病院へはバスで向かいます。一人で乗るバスは、苦手です。最初は「今年は紅葉を観れずじまいで、あなた残念だったでしょ。一人で行って来られても良かったのに。フフ、来年一緒に行きましょうね」と笑っていた○○さんは、冬にはもうベッドから起き上がる事は出来なくなっていました。年が明け、何度かの重篤な時を経て、○○さんはもう寝ている時間の方がずっと長くなっていて、それでも起きてる時は二人で昔のたわいない事や、今年の紅葉はきっと奇麗だとか、そんな事をずっと話し続けていました。ある日、寝ている○○さんの手を握りながらうたた寝していた私は、自分の手にそっと重なる手の感触で目が覚めました。○○さんが微笑みながら私を見ていました。謝る私に、微笑み、そして、ちょっとだけニヤニヤして○○さんが言いました。

「昔の事を思い出してました。初めて会ったときの事。あなた、ジャミロクワイのパンツ履いてた。笑うの凄い我慢してた。あの日、凄い楽しかった。あの日から、ずっと楽しかった。本当にありがとう、ジャミロさん」

こちらこそありがとう、○○さん。でも、その名前、と苦笑いで言った私に返ってくる言葉は、もうありませんでした。

買う。ジャミロパンツ買う。なんで自分で書いたものでこんなに胸を苦しくしてるのか分からないけど、今深夜2時だけど、アベイルの店長たたき起こしてでもジャミロパンツ買う。みんなも買お。買おうね。後、紅葉も見に行こうね。私とジャミロさんと○○さんとの約束だよ。

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