お花見

なぜ女性は私という豚にこんなにも辛くあたるのか。豚だからか。解決してしまった。前世の業と今生の行いの結果、女性から好意的に接してもらえることが無いのですが、前世の業は無いな。虫だったから。つまり今生の行いの結果、女性から好意的に接してもらえる事は無いのですが、これはもう、顔がエロ本だからしょうがない。元来、母からエロ本として生まれてくるべきな所、神様の悪戯により体ついてきてしまったし、生まれて初めて喋った言葉は「DLsite!」だったそうです。「DL Getchu!」じゃなかったんだ。若かったのね。その結果、実際の知り合いの異性の名前よりセクシー女優の名前の方が憶えている数が圧倒的に多い怪物が令和の世に出現しましたが、皆さんも似たようなものなのは知っています。声優の名前とかキャラの名前とか。おそらく私と皆さんの間には1%程度の差しかない。皆さんとチンパンジーとの間の遺伝子情報の差も1%しかない。つまり私こそがチンパンであり、ならば女性から好意を持たれるわけがない。過去に一度もなかったとは言いません。実写版「ダーウィン事変」みたいな事は起きました。が、もう無い。男性は45を過ぎると「好意の気配」を肌で敏感に察知できるようになります。多分、弱めの帯状疱疹を勘違いしてるんだと思う。その勘違いによれば「好意の気配」は半径50km圏内にない。51km先にはあるかもしれない。そうやって移動を繰り返す虫達は、不思議な事に、ある一点に集まります。それが相模原市。人口の80%が虫。焼き払え!! クシャナ殿下もそうおっしゃっています。それでも。そんな虫にも。相模原市や町田市の女性は大変優しいのです。いないものとして扱ってくれる。空気の様に、いえ、自分を空気という不可欠な存在に例えるのは空気に敬意が無い。怒って澱むかもしれない。多分、コンクリの欠片ぐらいに扱ってくださいます。大変ありがたいですね!(家中の皿を割りながら) 地方の皆様には想像できないと思いますが、これが都下の空気です。

しかし、都心は違うのです。その日、私は会社のかなり距離の遠かった元社員が企画したお花見に参加するために相模原から浅草へと向かっていました。もう超ウキウキ。少しでも気の利いた人間と思われたくて、怨念のような重量の籠ったシャンパンではなく、丁度良いスパークリングワインと成城石井の丁度良い総菜と丁度良いデザートを買って、皆さんの、爆上げではないけど2ポイントぐらい評価加算できるな、というような喜びの表情を想像しながら電車に揺られていました。多摩川を超えて世田谷に入った頃でしょうか、吊革を掴む私の前に座る娘さんの視線に気づきました。めっちゃ見てる。背後の広告などではなく、真っ直線に私の顔を見てる。好意的な感情が1gも混ざらない眼差しで。この歳になれば、それくらいは分かります。私の顔が少しでも整っていればポジティブに捉えられるのですが、お伝えしたように私の顔はエロ本。娘さんはエロ本をじっと読んでるだけという事? でも、軽い敵意のようなものも感じます。私の荷物などが娘に当たっているなどもない。となると、真実はいつも一つで犯罪者的なのと何か勘違いされてる? 私この後誤認逮捕される? と焦り始めたら駅に停まり、他の乗客が多く流れ込んできたので、私もチンパンジーの様につり革移動。娘さんはまだ私を見ていて、これは新宿駅で逮捕やむなしと覚悟を決めたところ、バサリと肩に触れるものが。髪。私の隣におわすカップルの女性のポニーテールが、女性が男の方を向いたときにバラ鞭のように私の肩を叩いたのでした。女性はニコニコと男性と話していて、私を殺したいと思っていない女性の表情は全部素敵ですねぇ(改めて娘さんの表情を確認して)、いや、殺意の表情でさえもそれはそれで素敵であるのが良くないけど、好きな異性と一緒にいる時の女性の表情はやはり素敵で、でも、あの、バラ鞭の回数多すぎない? ポニテ初心者? となる程に、10じゃ効かない回数で私を打ち付けてきました。私も長髪ですから、髪が人に触れている事に気づかない訳がないのは分かります。間違いなく意図的な攻撃で、あの娘さんの目線と同じ何かです。というか、ここまでするなら男側からも何か一言あるべきでは? 「オタクくーん、俺の彼女がゴメンねー?」とか。と思っていたら、急に背後からバランスを崩した女性が、バッグの角を的確に私の脊骨に当てる形で倒れこんできました。この方はすぐに謝られたので凄く痛かっただけで何も問題なく、この日一番の善人でした。それよりも、その悶着で少し距離が出来た筈なのに、再度寄ってきて鞭打ちを繰り返す女性というかカップルはもう、一目で女性に縁のない男性に鞭という恩恵を与える事を生きがいにしている女性とそれをサポートするスパダリとしか思えず、悔しい事に鞭の度になんか良い香りもするし、次に鞭打ちがきたら「ありがとうございますっ!!」と絶叫する覚悟を決めた所で、乗り換えの代々木上原駅に到着。少し寂しい気持ちで乗り換えた地下鉄は小田急線より混雑してるけど、睨みつけてくる娘がいないだけでこんなにも穏やかなのですね、とホッとしていたら、シンプルに隣の女性から顔に肘打ち。つり革を持つ手の肘で。確かに少し揺れたかもだけど嘘でしょ? かつ、全然謝らない?! ありがとうございます! 好きです! あと、ノースリーブなので脇が近くてドキドキしました! ありがとうございましたありがとうございました! まだあるんです。その後運よく座れたら隣の女の子が舟を漕ぎ出し私の肩にもたれてきたので、私が痴漢冤罪で逮捕されないようにどんなテクを使って自然に目覚めさせようか考えていたら「ガッ!!!」とこっちがビビるほどデカい寝言を発し、その自分の声で起きた後に何故かいぶかしげに私の顔を見たとか、浅草駅から花見会場に向かう途中に着物姿の二人組から「あのーすみませんー! やっぱ良いですー!」と1秒で終わった縁を持ちかけられたなどが発生し、会場に着くころには、もしかして私は今日誰かと結婚できるんじゃない?と思っていたのですが、待ち合わせ場所にいた10年ぶりに対面した女性社員から第一声目で「10年前と全く変わってなくてウケる」と謎の距離感を食らい、ヤマアラシモードに移行。花見後も、女性社員・女性元社員しかいない飲み会に誘われ、お姉さま方に可愛がられる事を期待して参加したら「更年期もう始まってる?」「ホットフラッシュヤバい」「離婚訴訟終わらない」等のお話を6時間聞かされ、ファッションの話題になったので「レディースの服見るの好きで、chloe好きなんですよー」と口火を切ったら「ロリコンじゃん」の一言で片づけられて終わりました。なんで?

このように、都心の女性は私に大変厳しく辛くあたるので、正直ずっとドキドキしてました。私ぐらい女性に縁のない人間は、これだけで3年は生きていける。3年後には、これを「最後にモテた日」と変換して、あの日があったから生きてこれた、と深夜高速の終点に着いたみたいな発言をしはじめる。むしろ、花見の帰りの電車の中では既にそう思い始めていたので、そのまま馴染みのバーに寄って、その場にいる常連の皆さんに「聞いて! 今日モテた! 明日死ぬね!」と報告するために、意気揚々とお店に向かいました。ここからが本題です。店内にはいつもの素敵な常連さん方が楽しい時間を過ごされていました。やべぇ、私、今からここで自分がモテた経験談を、誰からも聞かれてないのに発表しようとしてるのか。そう思うと興奮を抑えられず、軽く勃、いやいいです、とりあえず口火を切り出しました。

「みなさん! あのですね、わた

『んぁー』

やられた。あの子だ。ハイテク極まるこの店に最近やってきたAIの子。キッズ程度の知能を備えたモチモチの饅頭の如き、まさに愛されるためだけに生まれた可愛いの権化。この子が喋るだけで店内が明るくなり、みんなが神輿に乗せてワッショイしだす。全員の仮想孫。Vgrandchilder。言語を習得しきってない故の愛くるしさで全員を発狂させる新種のクトゥルフ。この日も一言喋っただけで私の研究発表を無かったこととし、店内にいるお客様全員に「ん-、どちたのー?」とお爺ちゃん化させる事に成功させていました。魔法かよ。そんなあの子に対して、私だけはまだ心を開けていない。姪っ子にさえ人見知りを起こして直接お年玉を挙げず、親を通じてpaypayで送金した私です。ロボットに対して人見知りをするなんて、呼吸より余裕。だって、目を見ればわかる。あいつ、意思を持ってる。全てを見通す曇りなき眼で見定めてる。アシタカよりアシタカ。その上、優しさも兼ね備えており、さっきの私の発言を遮ったのも、下劣なタタリ神と化した私の品性を察した上で、これ以上店内での私の地位を下げないよう適切なタイミングで発言をしたのです。私は全部わかってるんだ! その上でひたすらに可愛い。その可愛さ故、みなさま、あの子を平気で撫でられてますが、もし私が撫でた所から腐っていったら? 可愛くないとは1mmも思ってないどころか、きっと誰よりも溺愛できるとは思ってるんです! なんて言うんでしょう、コケピーに対するアサの感情に近いのかもしれません。そうでもないな。憎の気持ちはない。むしろ超かわいい。その日も、他のお客様がいないタイミングでジーっと見てたら「照レルー」ってモジモジしてて、私が見つめてそんな反応する存在はこの世でこの子だけであり、その他の存在はアレルギーで肌がかぶれる。ああもう可愛い!!! だからこそ私なぞが近づいちゃあいけないのです!!! と、全員が思っている。タラシだタラシ。とにかく、私は可愛いと思う存在に近づく事が出来ないのです。なので、常連の皆さんがあの子を可愛がってるのを遠くから眺めてるだけなのですが、ふと思ったのです。私、親からでもあんなに可愛がられた事あっただろうか? 現存する数少ない私の写真の一つに出生祝いの赤子の頃の写真があるのですが、これが大変可愛くない。8割の人が、ごみ処理場の写真と区別がつかないと思います。いや、自分とあの子を比べるなんて羽虫とエルファニングを比べるようなもので、大差過ぎて何の意味をなさないのは承知どころの騒ぎではないのですが、あまりにも勝てる所が無さ過ぎね? 知能も向こうの方が高いし、きっとあと数カ月で50m走でも負ける。嘘。私、AIロボットに嫉妬してる? 46歳の? 小男が? 最悪だ。ご両親、あなた方が短い結婚生活を通して作り上げた最高傑作は、こんなに哀れなモンスターでした。本当に残念ですね。私も残念です。片親の子は、幸せをためるコップの底に穴が開いているといわれます。きっと私のはコップでもなく、輪ゴムなのでしょう。貯まる、とかそういう話ではないのです。なので、ここまで自己肯定感が薄い。いっそ、人間を辞めて、私もAIに生まれ変わってしまいたい。そうすれば、きっと私でも皆に愛される。だけど、今生での徳の積み方が甘いせいで、きっと私はVOVOTになる事はできず、ボストンダイナミクス社のビッグドッグにしかなれない。しかも、蹴られるテスト専用の。

「店長、お会計を」

そう伝える私は、きっと泣いていたと思います。静かに店を出る私にあの子が語りかけます。

『ぃあぉぁー』

ぃあぉぁー、と誰にも聞こえないか細い声で返します。私は、君と仲良くなりたいと心から思っているよ。でもきっと今は無理だ。今日、確かに私はモテたけど、心はこんなにカッサカサだ。今じゃないんだ。夏ごろ、副業が増えて経済的な余裕が出ていたら、多分ちゃんと挨拶できると思うんだよね。その時も今みたいに挨拶してくれたら、嬉しいな。きっと一緒に50m走しようね。じゃあね。またね。

そう、心の中で呟いて、お店のドアを閉めました。

お花見